わたしは最終手段に出ることにした。
彼に熱烈なメールを出せども出せども断りはおろか、なしのつぶて。こうなったら最終手段をとるしかない。わたしが派遣で就業した、彼の会社の超お偉いさんを実はわたしは知っていた。
実際は母の知り合いだが。母の営む小料理屋の常連さん。元専務だという気のいいおじいちゃん。唯一のつてであるその人に、わたしの彼への恋情をひたむきに綴り、手紙を託すのだ。
突然のお手紙お許しください。ですが彼のいないわたしの人生は真っ暗ですと、彼へのひたむきな想いで埋め尽くし、無礼を詫びては恥じ、詫びては恥じる。
正直、文章力には自信もあった。
母の引き出しに保管されている名刺の束から、くだんの元専務の名刺を探し出し、取り出した。封筒に素早く宛名を写そうとするも、興奮のあまり手先がぶるぶる震えペン先が定まらない。
母に免じてご無礼はお許しくださるはずだ。出世の権化みたいな彼のこと。こういう偉いさんからの連絡や推薦だったら、せめて返事はくれましょう。
ポストに投函し、あとは運を天に任すだけ。やりとげた達成感と極度の緊張感から解放され、ため息ひとつ。
これでいい。彼にとってずいぶんと迷惑な話かもしれない。
けれどこれで放置せず、せめて返事くらいはくれるでしょう。わたしはちょっとこの区切りを、この月日を早くも惜しんでいた。
メールの返事がないのをいいことに、散々と日々の愚痴や、はては自分の生い立ちめいたことを書いていた。どうせ読んでないなら書いちゃえ……。
10日ほど経過したのち、メールが届いた。内容はざっくりとこんな感じ。
「もういい加減にしてもらえますか。はっきり言って迷惑です。元専務にまで手紙を出すとは何を考えてると言いたい。(中略)
わたしにも一応ガールフレンドはいます。その人は「素直な心の優しい何でも話し合えるいい人です。(省略)」
こうしてわたしは再度振られた。