ある日、わたしは彼の机をこっそりと見に行った。企業サッカーだかの練習に行ってしまい持ち主は不在だし、周囲には誰もいない。
なぜならその日わたしはいちばん遅くまで残業していたのだった。整理整頓され尽くした机。引き出しにはキチンと鍵がかかっている。
卓上カレンダーにはざっくりとした予定が達筆な文字で書きこまれている。きっと詳細なスケジュールは手帳に記載されているのでしょう。
わたしはチラと自分の席、ふたつ向こうのデスク島にある自分の席を眺めた。なんとまあ対照的な散らかり具合だろう。
モノは斜めに置かれ、書類は小山をなし、ノートパソコンの上には、未処理伝票が積まれている。実はわたしの部屋もそう。
いやいやもっとひどい。あの惨状を見られると想像しただけで憂鬱になる。暗い雲が立ち込め、頭上でカラスがわたしを嘲笑う。
おそらく彼はわたしを知れば知るほど、がっかりしてしまうだろう。部屋は汚いわ、結構バカだわ、案外とチャらいとか。
これなら学生時代の彼女とか、前の彼女の方が全然よかったと実感するでしょう。だったら部屋を片付ければ？！自分に問いかけながらも、今いちど二つのデスクを比べてみる。憂鬱は増す。
そしてわたしは気づく。嫌われたくないと不安になっている自分に。嫌われたら嫌われたでさあ…と、開き直るのが通常の自分。
そしてわたしは知っている。恋した男というのは、たいていのことは目をつぶってくれるのだということを。恋は盲目とはよく言ったもの。
けれど、彼の気持ちはさっぱり分からない。真意が読めない人。
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